こどもの夏休みを目前にして、
仕事で安曇野に行く主人に便乗し、美術館でおろしてもらって、
ひとり中に入ると、おきゃくさんは他にひとりしかいなくて、
(しかもマスターと話込んでわたしのことなど気にならない様子。
マスターというのはここの館主さんで、カウンターの中にいつもいるから、
わたしは自分の中で勝手にそう呼んでいる。)
ほんとうに、ほんとうにぜいたくなことに、
あの空間を、自分ひとりで一時間ばかり堪能できたのは、
今おもいだしても、震える出来事。

光と闇の混在する空間に強く惹かれる傾向がある。たとえば、
フェルメールの絵画の中で窓から斜めにさすくすんだ日の光の筋や、
ミヒャエルゾーヴァの描く不思議な小宇宙の動物達。
深い夜から明け方にうつろうとしている、ぼんやりと(かつ鋭敏に)ほのぐらい時間や、
ふり続く雨にしっとりと湿気をふくんだ空気、
一日中大騒ぎしているこどもが、ふとみせる冷静な視線。

酒井駒子さんの絵の中で、
こどもたち自身のふくらみ続ける世界の中に、大人は不器用に入り交じっていて、
“かつてこどもだったじぶん”が、“かつて抱いた時空間”と交錯し、
ふるえてしまう。

「金曜日の砂糖ちゃん」「こうちゃん」「ロンパーちゃんとふうせん」「よるくま
絵本館のざらついたグレーの塗り壁に
酒井駒子さんの珠玉の4冊の原画が丁寧に並べられ、
胸を突かれ、涙をこぼす。
絵本館の堂々とかつ無駄のない美しいたたずまいが、
絵の中のこどもたちを充分に受けとめている。
日本人女性作家の原画展は初めてのことだという。
圧倒的な原画の絵力を前に、こんなにヤラレてしまったのは、
ほんとうにひさしぶりのことのような気がする。

安曇野に来られる方がいたら、是非訪れてみてほしい。
アカマツの木々の間にたつちょっとはずれの絵本館の中で、
バッタやたんぽぽの種と戯れる砂糖ちゃんや、草のオルガンの少年や、
シュミーズをまとい今いるところから飛び出していくおんなのこ、
ふうせんをとって、とせがむロンパーちゃんや、おかあさんにあえて号泣するよるくま、
そして あのこうちゃんたちに会えます。

みんなそれぞれの安心の場所に佇んでいます。
こちらを振り向くこともなく。


2004.7.21



●安曇野絵本館URL http://ehonkan.net
●酒井駒子絵本原画展“夢みる子どもたち”は2004年6月30日(水)〜9月13日(月)まで
 ざんねんだけれど、未就学児と団体さんは入れません。




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