辰巳芳子さん。とても尊敬している料理家、随筆家。
わたしが10代のころ、雑誌の記事で辰巳さんの「スープの会」の記事をよんで知った。
一言一言に厳しさと深みと説得力があり、著書をよむといつも背筋がのびるような思いだった。
NHKで特集されていた四季の移ろいの中での辰巳さんの活動の番組は、永久保存版。何度も繰り返しみている。
今回信州飯山で、辰巳さんの特別講演会があり、21世紀の食を支えてくれるものとしての雑穀をテーマに、
スープやお菓子の指導をいただき、実際に昼食会でいただくこともできるというので、どうしても参加したく、
お友達のWさんをお誘いして、2日間、飯山での休日を楽しんだのであります。

スープ作りの実演とお話をまじえての講演会。
2日目は辰巳さんと交流あるパティシエを迎えてのお菓子セッション。

もちろん作り方等の細かな扱いは重要なのだけれども、辰巳さんの視野はもっと広く、賢く、哲学的だった。

風土をむさぼってはいけない、豊かさのむこうに何をみるか、生産の根底を安きにつくと、だめになる。
傾向、ピントの向け方をもっと大切に、真剣に考えなくてはいけない、そのためにも、
趣味をみがき、趣味のよい方にであい、暮らしの風景をつくっていかなくてはいけない。

「飯山」という場所で講演会をされていることに対する責任感、重要性を
辰巳さんご自身が充分に感じておられるのだった。
時に辛口でありながらも、最大限の助言を「飯山」に向けて提言されていたのが、わたしには感動だった。

この風土に、まだまだ豊かな実りがあり、まだまだ可能性があるからこその提言なのだと思った。
この2日間は、地元の小学生も参加し、絆を深めていた。
食というのは、未来へつなぐあくまでもひとつの切り口であり、
「どうぞ子供を臨機応変に、賢く働けるひとに育ててください」という言葉が随所随所で辰巳さんの口から発せられた。
母親としても、身にしみる言葉だった。


今回辰巳さんご自身の希望で、信州各地のおやきが集められた昼食会になった。
わたしの暮らす村からも、おやき作りのおばちゃんが呼ばれて、
代表としておやきを作っておられたことが、とてもうれしかった。
私自身、長野のこの小さな村に移住してきて10年。
村の恵みのゆたかさ、昔から伝承される素朴な食べ物の数々に、最初はとても感動をしていたのに、
慣れてしまったり、他のたいへんな部分に目がいってしまったりで、
私自身、随分と視点が狂ってしまったものだ、と気づき、とても反省した。
気づかせてくれ、長野に目をかけ、大豆100粒運動などで根底を起こしてくださっている活動に、
感謝の気持ちでいっぱい。








開場の文化北竜館へ続く道の途中では、立派な鳥居がある。
この鳥居をくぐると、きよめられた、という気持ちがするから不思議。







昼食会会場には、地元の特産物が、楽しいレイアウトに!








たいへん滋味深いスープを2種いただいた。
緑あざやかな「野沢菜のポタージュ」、4種の雑穀に、揚げた蕎麦の実がトッピングされた「雑穀のポタージュ」。
スープは、一口飲んで、おいしさが全身に染み渡る。
子供、ご高齢の方、病気の方、どなたにも喜ばれる一皿だと思う。








スタッフの方々が、早朝飯山周辺で採った摘み草が、美しく生けられて。
質感ゆたかな和紙は、飯山特産の内山紙。









信州各地のおやきが並ぶ。今回の講演会は、遠くは北海道や福岡から参加されたという方もいらしたので、
みなさん喜ばれたことだろう。
わたしは栄村の米粉でつくったおやき(中は野沢菜)と、千曲の茄子のおやきをいただく。
おやきとお漬け物はセットですね。ゴーヤの漬け物すりりんご和えなんて珍しいものまで。







常におだやかな佇まいで、話をきき、感謝のことばを忘れない辰巳さん。






講演二日目は、軽井沢の「パティスリーシェカジワラ」のパティシエ梶原正次さんを迎えて、雑穀のお菓子セッション。
オートミールマフィンと、そば米のプディングをいただく。
マフィンにはカナダ・ブルーベリーのはちみつを和えたバターと、
メープルシロップとシナモンパウダーを和えたバターが添えられて。
紅茶も美味しかった。ディンブラのウバ。
紅茶研究家、磯渕猛さんのお弟子さんが、200人近くの分の紅茶をいれてご用意くださった。






この2日間は、お友達のWさんのご主人に送り迎えをしていただいたり、
うちの家族や、Wさんの娘さんやワンちゃんもいっしょに釣りやえび採りなどをして、
皆が飯山での時間を楽しみながら協力してくれたのがとってもうれしかった。

辰巳さんはもちろん、いろんな方に接し、学ぶことの多い会だったとつくづく思う。
辰巳さんのような人格者のまわりには、自然と魅力的なひとたちが集まって、力を貸しているように思った。
すごいことだ。これこそ辰巳さんのおっしゃる、出会いの大切さ、傾向、ピントの向け方を大切にするということだろう。
そういう意味で、わたし自身も、これからも出会いを大切に、賢く生きていきたいものだと思った。




2007.10.6




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