よあけ」

ユリー・シュルウィッツ作/画
瀬田貞二訳

福音館書店
ひとや車の通る「音」によって
ひとの気配、ひとの活動のはじまりに気付く。
それがわたしの中の「よあけ」であって、
孤独な時間。

しかしこの本、静寂の詩的な美しさにぞくぞくする。
そして登場するおじいさんの表情....。
「おおきなかぶ」で佐藤忠良氏が描いたおじいさんと並んで、
たまらなく心をくすぐるものがある。

おじいさんと、まごと、ふたりが焚くたき火。
さざなみ、かえるが飛び込み、とりがなく。
においと、音と、温度を感じ取る感覚は、
「よあけ」という時間にはことさら鋭くなる。
頭の中はくもがかかったようにぼおっとしているというのに。

「よあけ」は在るものを際立たせるということだ。
おじいさんとまごの中に通う血の流れさえも感じ取れそう。
この物語の「よあけ」は、
しずまりかえって、さむく しめっているのに、
うごめくものが、ぼんやりとあたたかい。

そして最後にはやまとみずうみが魔法にかかる。
おじいさんと孫は、「よあけ」を迎えるためにここに来たのだ。


大きな1ページの中にまるく浮かび上がる「よあけ」の風景。
ことばの余白も美しい。


03.2.12.
「おおきなかぶ」
ロシア民話/A.トルストイ再話/内田莉莎子訳/佐藤忠良画  福音館書店

各ページから「なぜ抜けんのじゃ」「だめじゃだめじゃ」「もうあきらめるわい」なんていう声が今にも聞こえてきそうなおじいさんのへたれ具合がたまらない..。(おばあさんがなぐさめているような絵もあるから妙に臨場感がある。)
絵本の中で人物がいきいきしているからこそ、無事かぶが抜けてばんざーい、という気持ちになってしまう..。見事に味わい深い。

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