■寂しさとせつなさと......
「金魚の恋」
坂崎千春著 新潮社小学校6年の時から、引越をくりかえしていた。
ともだちができたと思えばすぐに卒業式を迎えたり、
ひと夏過ごしただけの場所もあった。知らない土地に来て新しい学校に入るということは全くもって丸腰なわけで、
その度にわたしは身構え、
瞬時にまわりのひとを観察し、近所や教室のひとの構図を察知して、
自分の居場所をみつけなければならなかった。たいていはパターンがあって、
第一印象での「こんなひとだろうな」というカンはあたった。
ともだちになれそうなコとは無理しなくてもはなすようになったし、
クラスの中心にいるような快活なコは、
初めはとてもよく世話をしてくれて嬉しかったけれど、長く一緒にはいれなかったし、
臆病で、媚びずにはいられないわたしを見抜いているコは、わたしを相手にもしなかった。
カンをよりどころにわたしは過ごした。
それは一所に根付いて暮らすことができない自分が逆に得た貴重な力だと思っていた。しかし大人になるにつれて、
仮面をかぶったり、
表情と気持ちがつながらなかったり、
胸の中が細分化していくのは、私自身もそうなのであった。
その時の印象でひとを判断することは、むちゃくちゃなことだと思ったし、
逆にそうされることも、大きなストレスとなって返ってきたのだった。リセットしたくて都会を離れたのかもしれない。
そのうちネットの中にも場所を持つようになり、
このHPに気持ちの節々を記し、たくさんのメッセージもいただくようになった。
雪が溶けて緑の芽吹きが勢いを増しはじめた頃、
nonkoさんに、とこの本「金魚の恋」をいただいた。
『nonkoさんは孤独や寂しさというものを常に考えている方だと思うから』という言葉と共に。
(もったいなすぎて戸惑った。)
本の中には、一匹の赤い金魚の静かな時間が流れていて、
寂しさやせつなさがその上にちょこんちょこんとのっかっているのだった。
装丁にも丁寧に気を配っていることがわかる。本に対する姿勢が凛としている。
わたしはこの美しい本を書いた方のことを思った。
そして坂崎さんのエッセイ集「片想いさん」を読んで、
その文章の表情と、わたしが思い描いている坂崎さんとが
同じ色をしていたことに、ささやかな喜びを覚えた。きっと坂崎さんの絵本は坂崎さんの心の中をより忠実に写し出したものにちがいないと思う。
眠っていたカンがぴぴぴっと働く。
ひとを感覚で察知してはいけないと思い続けていたけれど、
ある方の中の『わたしの印象』が坂崎さんの本と引き合わせてくれたのだ。
それでいいのではないだろうか、と今は思う。
きっとあの頃のわたしは、拒絶されることがこわかっただけ。
坂崎千春さん。魅力を感じ続けていたいなあと思うひとの一人である。
「片思いさん
恋と本とごはんのABC」坂崎千春/絵と文
WAVE出版
special thanks....
chiharu-san/yoko-san!
2002.8.