「どろんこハリー」 
ジーン・ジオン ぶん マーガレット・ブロイ・グレアム え
わたなべ しげお やく 福音館書店


冬の間、雪におおわれ、色も気配もなにもない山々。
その固く凍った土の下で、草花があらたな春を迎える準備をしているとは
とても思えないのだけれど、
それでも必ず季節はめぐり、春は確実に訪れるわけで。

はじめて山で迎えた春、
土からにょきっと芽を出したこの草はなんだろう、と思っていると、
みるみるうちに芽は大きくなって、
まぶしい程の黄色いスイセンの花を咲かせた時の感激は、忘れられない。
冬の間、球根の中で力を溜め込んでいたのよ、といわんばかりのその堂々とした輪郭は
なんとも芸術的で、心強かったものだ。




以来毎年スイセンを見ると、はればれとした気持ちになる。
ひとすじのくもりもない真っ青な春の空のように。


石炭の時代、1956年に発表されたこの絵本。
まさに炭を使ったようなタッチの墨色と、春を彩る「やまぶき」と「よもぎ」の色。
そのシンプルな3色のみで、ハリーのどろんこぶりが炸裂する一日が描かれている。

バスタブでせっけんを泡立てる生活や、鉄道に機関車が走る光景など知らないのに、
どこか哀愁漂って感じられるのは、
その配色がどこか日本的で、なじみやすいからかもしれない。

しかし、ふたたび読み返すことで、
幼い頃から図書館や本屋にかならずあったこの「どろんこハリー」と、
おとなになった私との距離がぐぐっと近くなった気がするのは、
まぎれもなく、
ハリーの家の庭に、スイセンの花が咲きみだれていたからである。

100版を超えて読み継がれる絵本。
春のすがすがしさは、今も昔もかわらない、と
真っ黒になるまで駆け回るハリーを見ていて思う。



2004.5.7




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