安曇野ちひろ美術館へ

 自分がこんな恵まれた環境にいることをすっかり見逃していた。車を走らせて1時間もかからないところにある「安曇野ちひろ美術館」。

 子供を産んでから彼女の作品にふれることが圧倒的に多くなった。淡い水彩画の根底にあるもの-自分が息子と自由に会えなかったという運命-が見事なデッサン力となって、静かに、ずっしりと胸にひびいてくる。

 ちひろの作品や画風はあまりに有名で、好きか嫌いかとかいうレベルでは論じられない。ただ思うのは、彼女の絵を見ると、世の中の「母親」というひと皆で気持ちを共有しているような安堵感に包まれる。赤ん坊のしぐさのデッサンや、子を抱く母親のまなざしの絵をみて、あ、この気持ち言葉にできないけど皆わかるに違いない、みたいな。時に悩み、しんどくて投げ出したくなり、いろんな感情の波の中で、でもやはりなににも代えられない子の存在。その感情を無言で刺激してくる絵の数々を前に、やはり満ち足りた気持ちになってくる。

 子供が楽しめるようにも充分配慮してある。子供の部屋には木のおもちゃやぬいぐるみもあるし、ガーデンスペースや展示してあるオブジェもちょっとさわっただけでは壊れないものばかり。懐かしい絵本が3千冊おさめてある夢のような部屋はわたしには非常に魅力的だった。

 子供が怪獣と化すのを恐れて「美術館」と名のつくものには足が遠のいていた。子供を叱咤しながら行っても楽しくないのだ。好きだったセロリや、カルボナ−ラを、家族がたべないのを理由に食べなくなったように。でも、ここは素敵な美術館だと思う。ここまで子連れで気持ちよく訪れることができる美術館にしたのも、きっとちひろの絵の力だと思う。

喫茶でいただいたおやきは、しっかりしていて美味しかった。
父ちゃんはGUINESS。わたしは蕎麦茶。
胡桃はわたり廊下で見つけたカエルを離さないのであった。

2001.9.



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