「かばくん」
岸田衿子作/中谷千代子絵
福音館書店
このわたしが母親になってしまった。
4年近く前のこと。
そのゆるぎない事実を前にすっかり気持ちが固まってしまい、
子守唄を歌ってやる声さえもぎこちなさに満ちていた。
親戚から「かばくん」が届いたのはそんな頃だった。ひとりで読んでみたけれど、
どこが良い本なのか、ちっともわからなかった。
なんでかめがいるの?
なにがいいたいの?
絵の輪郭の線は、ただ乱雑に見えるだけで、
その色彩もキャンバスや筆の質感も、よく理解ができなかった。ふにおちないまま、娘に読んでやっていた。
お昼ねの前。
夜お布団に入ったとき。
毎日毎日、眠りにつく前に読んでやった。夢中で本に見入る娘の傍らで、
読んでやっている自分が発している声の抑揚や、韻の具合が、
なんとも心地よいことに気がつきはじめた。そして、かばのことを思った。
もうだいぶ本物のかばなど目にしていなかった。
でも私の中の「かば」は、こんなごつごつの皮膚をしていて、
目はリアルだけれどもおっとりしていて、
もちろん圧倒的に大きくて、のそりのそりとしていて、
きっと朝寝坊にちがいないと思うことに、
みじんも間違いはなかった。わたしはこの「かばくん」ではじめて、
絵と言葉が一体となって発せられる、絵本にしかない力というものを
実感したのであった。
2002.6.