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色の記憶






通っているアートスクールで、胡桃は4月から油絵をはじめました。
わたしもダンナも油絵というモノを描いたことがないので、
どのように描くのか、画材はどんなのか、キャンバスに油を塗るって?....等々興味津々。
彼女が一番最初に描いた絵は、製作した動物の指人形の背景となる野原の絵でした。
毎回塗り重ねられていくのが楽しみで、すごいなあ、と思って見ています。


春休みに水野美術館にいったとき、
見た瞬間涙腺がゆるんでしまいそうになった日本画が一枚ありました。
水色、白、紫、紺、
小さな点が銀箔の上にちりばめられた、あじさいの絵。

なんでだろう....呆然としていたのだけど、
ふっと気付く。そう、
私が小学二年生の時に着ていた、
“夏のワンピースの色”。

とくに思い入れのある服なわけではなかったのに、その記憶はあざやかで確かなものでした。
いとこからもらったワンピース。
走り回ってやぶいて担任の田辺先生に安全ピンでとめてもらったワンピース。
ぶわっと、二年生の時の空気が蘇ってくる。
わたしはたっぷり日焼けをしている..。教室で大声あげてはしゃいでいる..。
あまりに突然あらわれた遠い記憶にびっくりして、涙がこぼれそうになりました。


わたしは家が転勤族だったからか、ふとした瞬間にタイムスリップして、
郷愁の思いにかられることが多々あります。
洗顔料のにおい、駅を出た時のにおい、ぬるい風のにおい、
何度もくちずさんだフレーズ、ピアノの鍵盤のコツコツいうおと。
私にとって、思い出を蘇らせてくれるモノの多くは、“におい”や“音”だと自覚していました。
自らの“色”の記憶をこんなに強く呼び覚まされたことはなかった。


胡桃が小学生になって、
自分自身の小学一年生のときの思い出がたくさん蘇ってきます。
私が入学した川崎市立高津小学校。1年5組。
はじめ全員が自宅からセッケン箱をもちよって、1箱を1クラスにみたて、
小学校校舎の模型を作りました。
わたしの入学の頃の記憶は、セッケン箱のにおい。

あの頃の自分と胡桃とを重ねあわせ、
自分の生きてきた道を何度もなぞりなおす。


記憶を引き出すきっかけはたくさんあった方がいい。
それらはその時を生きた証であり、力になり、助けてくれる。
時はいたずらに過ぎていっているわけではない。

“絵を描く”“モノを作る”なんでもいいから、
常に何かを感じ、表現し続けていきていってほしいな、と
小学生になった胡桃に対して思います。
それらがこの先彼女自身を支える力になることを信じて。



2005.4.18






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