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うたがきこえる



病院でインフルエンザの治癒証明をもらってから、遅れて幼稚園にいく。一週間ぶり。教室にだれもいない。みんなプレイルームに集まって卒園式の練習をしている様。おくることばのこえが聞こえる。うたが聞こえる。ああ、もうすぐほんとうに卒園式を迎えてしまうんだな。お迎えの時間より少し早く園につくと、年長組のうたがきこえてくることがある。六年間そだててくれてありがとう--、みたいな歌詞のうた。思わず涙がこぼれそうになってしまうのだけれど、がまんがまん。

胡桃の体の調子が今年に入ってからとくに悪くて、病院通いも毎週になり、幼稚園でも毎日かゆいと先生に訴えては冷やしてもらったり、保健室に連れて行ってもらったり、早退したりが続いていて、すごく混乱していた。つぎからつぎへと彼女の体の中からかゆみや赤みがわいてくるのだ。小学校の説明会で先生が「自分のことは自分で当たり前にできるようになってもらわないと困る」と話していて、もちろん学校側としては漠然とした意味でのことだとおもうのだけど、うちの子は今まで幼稚園ではかゆいといっては歌がいっしょに歌えなかったり、体操ができなかったり、先生にすごく世話をかけて、給食でアレルギーで食べられないものがあっても、栄養士の先生が別に作ってくれたりとかすごく特別にしてもらっていて、けど彼女のアトピーや食物アレルギーは快方に向かっているとはいえなくてむしろ年によって悪化している部分もあったりで、でも胡桃は成長しているし、これから世界も親の範疇をこえてどんどん広がって行くだろうし、その中でアトピーに対する先のみとおしが立てられず、とにかく混乱していた。すごく本人にとってもデリケートなことだけに、なんとかしてやりたい気持ちと、成長が解決してくれるのではと思い続けた期待心と、気をおとしてしまう部分と、これから迎える小学校という未知なる世界へのかすかな不安。いろいろな点が入り交じってずどんと重たいものが心の中にたまってしまっていたように思う。

そんな2月の最後に幼稚園の参観日があって、胡桃達はおみせやさんを開いて、親たちを招いてくれた。おかねから品物(アクセサリー)財布に至るまで全部自分達でつくって、マッサージ付きのレストランもあって、温泉もあって、こままわしのコーナーもあって、子供達の独創性と、明るく元気な力にとてもはげまされた。インフルエンザの流行はじめでお休みの子も多かったのが残念だったけれど、この3年間のクラスの子達の成長の集大成のような立派な立派なおみせやさんだった。そして、私達小学生になるけど心配しなくてもだいじょうぶだよ、と子供達に背中をおされたような気持ちになったのだった。

胡桃も、彼女自身の持つ個性というのも充分に発揮しながらすごした3年間だったと思う。人一倍甘えん坊で先生にひっついて離れず、家でのできごとを連日事細かに先生に報告し、ものおじというものを知らず、工作やねんどで動物達やお人形の家を作ってクラスに広めたり、こままわしやとび箱を懸命に練習したり、歌も覚えては大声はりあげて歌う。いつもテンションが高くてうるさくて、すぐ調子にのる性格にはさんざんふりまわされたけれど、みんなと同じモノを食べられなかったり、かゆみに苦しんだりする自分の体にまけず、よくここまで元気に明るく過ごしてきたね、と褒めてあげたいと思った。

アトピーというのは本当に不可解なものだ。インフルエンザのように薬と時間の力で簡単に治るものではないのだ。治そうとするのではなく、うまくつきあっていかなくてはいけないものではないか。今は実感としてそう思っている。胡桃がこれからアトピーとうまく折り合いをつけながら生きていけるように、私はできる限り力になろうと思っている。そしてそのことは私のこれからにとっても最も中心となるテーマになるだろう。最近ようやく胡桃のアトピーを真正面から見据え、親として覚悟を決めた感がある。それがわたしの重要な役割ではないかと。アトピー、アレルギーを持ちながらも胡桃が今のように明るく元気に生きていけるように、大きな懐をもって傍らで支えてあげたいと思っている。彼女には無限の可能性があるはずだし、自由に夢をえがいてほしいから。




2005.3.7.






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