「にぐるまひいて」
ドナルド・ホール ぶん バーバラ・クーニーえ もきかずこやく
ほるぷ出版



19世紀はじめのニューイングランド地方ある家族のつつましやかな暮らしを描いた一冊です。

10月、にぐるまに、この1年に家族が作り育てたものをたっぷりつめこみます。
羊の毛を紡ぎ織ったショール、手袋 ろうそく、リンネル、しらかばのほうき、
じゃがいも、りんご、はちみつとはちのす、かぶとキャベツ。
樹液を煮詰めてとったかえでざとうのきばこづめ、子供があつめたガチョウのはね....。
とうさんはにぐるまにうしをつなぎ、10日間かけて街の市場へいき、
それらを売ります。さいごには、にぐるまもうしも。
ポケットいっぱいになったおかねで、家族のためにとうさんは買い物をします。
暖炉にさげる鉄のなべ、むすめへの刺繍ばり、むすこにはナイフ、
家族みんなのために、うすみどりいろのはっかキャンディ。
暮らしで使うささやかな道具たちと、ほんの少しの楽しみの品です。
それらをかつぎ、とうさんは、家族の待ちわびている家にかえります。
また一家は、つつましやかに、新たな一年をはじめます

バーバラクーニーの絵は、静かに心をゆさぶります。
物語には、家族の「ことば」はひとつもない。
家族の心をえがいた「ぶん」もひとつもない。
ただ家族のくらしを描写している。
とてもとても静かで、穏やかで、うつくしいのでした。



追い立てられている感、評価されている感、失敗してはいけない感...。
常に、まるで試験前のような切迫感を感じてしまう。
そんなやっかいな気持ちの波が頻繁に来るので苦しいです。
頭の中のスポンジには、よほど細かな穴があいているのでしょう、
ちょっとした出来事、ちょっとした不安、ちょっとした悩み、ちょっとした疲れを、
どんどん吸収していく。
さっさと絞りきってなくしてしまいたいと思っても、
絞る気力が足りなくて、
そんなのおかまい無しで、次々といろんなことがおおいかぶさってくるわけで、
感情は不安定になり、考える力も薄れ、
ささいなことでも過剰に振り払おうとしてしまう。
いろんなことに、自分なりに力をつくしていながらも、反面
気持ちの置き場を見失って、解放されたがっている。
自分の感情のきふくに、自分がついていけないのです。
いっそ感情なんてなくしてしまいたい、なんて思ってしまうのです。

そんなとき、思い出したようにこの本をひらきます。
何度も眺め、何度も読んで、そのたびにやすらかな気持ちになることができます。
わたしの体の中の時間のながれというのは、どちらかといえばゆっくりなんだとおもいます。
一日一日を大切にくらしていくというのは、
「前に進んでいかなくてはいけない」わけではなくて、
「失敗してはいけない」わけではなくて...。

ゆっくりでもいい。とおまわりでもいい。
「自分の尺度」で一歩一歩をあるいていきたいのです。

家族どうし、友達どうし、
自分にかかわるたくさんの方々どうし、
互いに労をねぎらいながら、おだやかな気持ちで、
ささやかな喜びを共有し、おだやかに生きていきたいもの。

その力を得るためにも、
この本はわたしにとって貴重で大切な一冊です。






2007.12.6



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