ピアノの楽譜を買った。ドビュッシーの「月の光」が入っている曲集。
弾きたいのに、年々所々忘れてしまって弾けなくなっていたのだった。

この「月の光」は、わたしの中でもとくべつな曲のひとつ。
旋律を追いながら鍵盤をたたき続け、
自分なりに弾けるようになったのは中学生の頃だったとおもう。

度重なる転校の折にも、この曲を弾くことで自分を支えてきたし、
ひとり暮らしをしていたときも、時々学校の音楽室に行ってピアノに向かい、この曲を弾いた。
夜しか自宅に戻れなくでもヘッドホンでピアノがひけるようにと、なけなしのお金で電子ピアノを買ったときも、
まず弾いたのはこの「月の光」だった。

弾くたびに「なんて美しい曲だろう」とおもった。
夜の空の濃紺の静けさと、その中の一筋二筋の月の光のまぶしさ、キラキラ感。
旋律から浮かぶ情景がとても密やかながらドラマティックで。
ほんとうに、ほんとうに好きな曲だった。

あらためて譜面を追う。ああ、やっぱり指も益々うごかなくなってる。
実家を出てからピアノと離れて以来、確実に感じ続けている、
「弾けていたものが弾けなくなっている」事実。
でも思った。
それでもいい。
弾くだけで満たされている自分がいる。

ピアノの前に、この10年ほとんど座らなかった。
些細な事であっても、やりたいのに
もう何年もやっていないことがたくさんある。
その事にすら気づかずに、ずいぶん時間ばかりが経ってきたような気がする。

ちょっと自分を可愛がってあげることで、ずいぶんしあわせになることができるものだ。
行動するって大事だね。

ちなみに、先週、主人とふたりで久しぶりにご飯
を食べにいったときも、
同じことを思ったのでした。
アンチョビと茄子のピザと、うにのクリームパスタ、エビのアメリカンソースパスタ、
めっちゃうまかった......。


2007.5.1






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