そのまま


 娘を託児所に迎えに行くと、くうはまだ歩き始めたばかりの男の子にテレビの前でつかみかかっていた。あわてて娘をしかる。その後保母さんに「くうちゃんは、○○くんにテレビのボタンをいじっちゃいけませんよ、って教えたかったんですよ。」と告げられた。保母さんというのは、子供の特徴を見つけだすプロである。我が子のことを一番よくわかっているつもりの母親の妄想を見事に取り払ってくださる。2才になる少し前からくうをお願いするようになってつくづく思う。

 くうは10人になるかならないかの子供の集団の中で、おもちゃや絵本と共にひとりで過ごす時間を好んでいるそうである。お友達が外でお砂遊びをしていても、部屋で本を広げていたり、寝ている赤ちゃんを気にしたりしているらしい。家庭では見せることのない、控えめな姿。大勢の中で自分のペースをつかめずにいる娘に、はからずも母として心配をしてしまう。

 その様子聞いたダンナ。「みんなとわいわい遊べるだけが良い子なんて思わない。ひとりで遊ぶのが好きな子がいたっていいし、なによりくうがくうなりの性格を持ってきている。これ程いとしいことはないじゃないか。」と言う。

 私は転校の多かった幼少時代、友達作りには人一倍苦労した。それでなくても小、中学 校では明るい人、もの静かな人、派手な人などと子供の感覚で自然にグループができていく。新たにその集団の中に放りこまれると、自分からアクションを起こさない限りひとりでいなくてはいけないわけで、しゃべることが得意だったり、面白かったり、趣味が子供なりに共有できたりしたほうが断然有利で、自分の交流下手を心底うらめしく思ったものである。そのせいもあって、人と接する時はできるだけ積極的に行動的にいなくてはいけない、という強迫観念が自分の中でコンプレックスをより強調していた。

 人との協調性ばかりに気をとられているより、自分の世界をもっと楽しめばいいじゃないか、と割り切ることができるようになったのは、単位が家族になってからかもしれない。こんな静かな山での毎日にも楽しみをたくさん見つけることができる。やはりひとりで自分の価値観をつらぬくことはパワーがいると思う。しかし自分がどうしたいのかを大切にし、必要以上にまわりとの関係に固執しなくてもいられるようになって、心地よい解放感を知った。「それでいいんだよ」と後押しすることのあたたかさ...。


2000.10.25










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