街にいて好きなのは、夜。

人々は皆違う表情をしてさっそうと行き交い、
その中に1人でいてもなんとなく安心で、
私はこわごわと車を跨ぐ歩道橋を渡って駅に向かい、
路上ライブをしているバンドに見入り、
いつまでもそこでぼーっとしていたくなる。
何も考えない。
ただ街の夜に体をゆだねている。


山にいて好きなのは、昼下がり。

とかく虫の足音まで聞こえそうな静けさの中で、
私は縁側に座り、
時折響き渡る鳥の声を感じながら、
お茶をすすり、
木々を眺めてぼんやりとする。
人の音はしない。
鳥や風や虫だけが空気を揺らす。



街の太陽はまぶしすぎて押しつぶされそうになり、
山の夜は深すぎて 、ひとりでは寂しすぎる。

だから私は山と街を行き来する。



2000.5.29









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