田辺聖子の作品を朗読劇で楽しむ舞台があり、行ってきた。

はじめての北野文芸座。
観客は上品なファーやコートをまとった中高年のおばさまが多かったけれど、
写真撮影をしたりするひとでにぎわっている文芸座をみるのは嬉しかった。
(ふだんあまり開館していないので。)


出演者は萬田久子、藤村俊二、村中かずき、松岡恵望子。
「よかった、会えて」
「愛のそば」
「ああ、カモカのおっちゃん」
「ジョゼと虎と魚たち」
「うすうす知ってた」
と、短編やエッセイの入り交じった二時間半のおはなしの世界が
舞台上で静かに演じられた。

朗読劇という形のものを鑑賞するのがそもそもはじめてだったのだけれど、
ささやかな効果音と、ぽろんぽろんとしたピアノの音、
時間や情景にあわせたシンプルな照明、お話のキーになる小道具がひとつふたつ。
朗読という太い軸のまわりをそれらが囲む、
いさぎよく、聴衆の想像の世界を邪魔しないシンプルな“大人の舞台”だった。

舞台中、出演者は台本を手に朗読をすすめるのだけれど、ひやっとすることに、
おひょいさん(藤村俊二さん)が、ときどきつまったり止まったりするのである。
途中どこを読んでいるのかわからなくなって、ページを前後めくったりしている。
スポットがあたっていないときは、ぼーっとしていて寝ているのかと思った。笑
それをあたたかく待つ萬田さん。
ハプニングがトラブルにならず、優しく受け入れられているのが、かえって暖かみを感じさせた。
おひょいさんの人徳であろうし、お人柄であろうし、
芸能活動をとおしておひょいさんを知る観客の皆もたぶん、
まごまごしたおじいちゃんを気遣うような気持ちで鑑賞していたと思うし、
それってすごいことだなあ、と風格あるお年寄りの姿を見せていただいて感服した。
もちろん読む声はとことん味わい深いのだった。

大阪弁節のきいた痛快な、男女の恋愛模様。
体にじんわり残っているのは、
おでんやだとか、結婚式場だとか、ステテコだとか、探偵業だとか、バーボンにウイスキーだとか
そういった場面の空気感。
ある程度の大人の恋愛になると、
理屈だったり理屈じゃなかったり、や
男、女としての性(サガ)がぶつかりあうエネルギーが、落ち着いてくるのだなあ。
脚をふみはずしながら、あれ?と気付きながら、それでもゆっくりそれらしく生きていく男と女。
田辺聖子さんの作品の人間くさく滋味深い魅力を知って元気がでた。

その中で「ジョゼと虎と魚たち」のみずみずしさは新鮮だった。
演じる村中かずき、松岡恵望子も、若さのなせるキレと努力が感じられて、とても好感がもてた。
けだるくあやうさを秘めた、きゃしゃな日本人形のようなジョゼと、支える恒夫の海辺での場面は、
ほんのりエロティックで、ふわふわしていて、
恒夫がジョゼを車いすで押していく姿に海の波の音がかさなるのが心地よかった。
動物園や水族館に、しばらくぶりにふらりといきたくなった。

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終演後、近くのTeaRoomに行って、暖かなストーブの横で珈琲をいただきながら、
しばらく田辺聖子のエッセイ本に浸った。
どうでもいいことと、喜びを感じることの価値観について、心にどんぴしゃなお話があって、
ぶんぶん、と思わず頭を振ってしまう位その言葉に納得してしまったので、すごい壮快な気持ちだ。
言葉には力がある。共感できる言葉に出会えることはほんとうに幸せ。
ものすごい勢いでカラメルスノウパイを食べて、
マスターに「おいしかったです!」となぜか堂々と言って帰った。

いい一日。感謝。

2008.11.8





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