湯剥きしたトマトをドレッシングにつけて冷やした小鉢の一品。
東京の友人の家でお昼をごちそうになったときに、
”鶏肉と野菜のロースト”と”ガーリック風味のバケット”といっしょに出してくれて、
美味しくて作り方を教えてもらって以来、ときおり我が家の食卓にも登る。
作り方はなんてことないんだけど、トマトにドレッシングがしっかりと染みておいしい。

毒舌心地よい彼女とは、20年のつきあい。
いつも目を細めてにこやかにしておられる優しい旦那さまと結婚し、
都心の高級住宅街にある、入り口に立派な花が生けてあるキレーなマンションで暮らす彼女は、
私の友人の中でも一番のセレブリティだ。
会うたびに刺激をもらう。田舎の山に囲まれた暮らしとは真逆だからね。

それにしても、貴重な過去を共有する、高校時代の友人同士。
20年の年月が、彼女にトマトの湯剥きをさせるようになるなんて!
彼女が食卓に、美しく丁寧にクロスやナイフフォークを並べるなんて!
旦那さんに優しく気遣いし、言葉をかけあって暖かい時間をすごしているなんて!
そもそも主婦をしているなんて!

そもそも「子供は作らない」と豪語して、
私の娘の一才時には「右翼」という言葉をくりかえし教えようとしていた彼女が、
今はまるまるした可愛い男の子を産んで、体ばたつかせて笑顔を振りまく姿にめろめろだ。

人生っておもしろいな、とおもうのだ。

毒々しさはかわらないけれど、優しさは深まっているように、会話していて感じる。
それが生きて経験を積むということなのだろう。
彼女の生きてきた道は、とても険しかった。
でも苦難を経ても、のりこえ幸せを手にしながら、かつ冷静に生きている姿はとてもりりしい。

すぐに感情があふれ表にでてしまい、深い闇に落ち込んでしまう私のような人間が、
おきてくる現象をそのまま受けいれるには、余裕と、ある程度のわりきりみたいな達観性が必要だろう。
私は自分に自分の許容量以上のことを課しすぎている気がする。
心のコップがあふれるまえに、日々少しずつでもちょろちょろ流していきたい。
それを受け止めてくれるのは、
冷静であたたかな目線をもったひとや、またおおらかな包容力をもったひとの存在だ。

彼女の一言に目が覚める。そのたびに、彼女が菩薩のように思える。

ああ、トマトのマリネを食べるとほっとする。


2008.11.






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