「おだんごスープ」
角野栄子・文 市川里美・絵 偕成社


おばあさんが死に、気力を無くしうちひしがれているおじいさんの姿から
おはなしははじまります。。
何をする元気もない。一日中じっとすわっている毎日。
あかりもつけずにいる部屋の暖炉の脇には、枯れきった花がささったままの花瓶。

「おばあさんが つくってくれた
おだんごスープがのみたいなあ」
ある朝おじいさんはそうつぶやいて、
おばあさんの歌っていた歌をおもいだしながら、
スープを作る。

においにつられてお客様があつまってきます。
「おばあさんのスープはもっとおいしかったなあ、どうしてだろう」
おじいさんは日々スープをつくり続けます。
ごちそうをするたびに、
「ありがとう」といってもらうたびに、
おじいさんの顔はやわらかくほぐれ、生気に満ちてきます。
予期せぬお客様に「あーいいにおい」「ありがとう」「おいしい」といってもらえる喜びが、
おじいさんの心に大きくあいた穴を、少しずつ埋めてくれるのでした。

おじいさんの使う赤いラインのクロス、
オリーブグリーンにペイントされた食器棚やダイニングセット、
藍色のつぼにおさめられた木のへらやレードル、
暮らしを楽しんでいた生前のおばあさんの姿が思い浮かびます。
あくまでおじいさんが求め作りつづけていたのは、おばあさんの作ってくれた思い出のスープなのです。

おばあさんが亡くなった悲しみにも、
おばあさんの味を欲する恋しさにも、
おじいさんはとても正直で、まっすぐに向き合っていて、涙がでます。
おばあさんへの愛の深さをかんじます。

何かたりない、何かたりない。
作るお鍋もどんどん大きくなっていきます。
大きなお鍋でいっぱいつくったスープは、
ただそれだけでもずっとおいしくなったにちがいありません。

スープをぺちょぺちょと飲んでくれるお客様を目をほそめてみつめるおじいさん。
おいしいといってくれるお客さんに、自分の分は少ししか残らないほどふるまってしまう。

元気をなくしているおじいさんの心が少しずつ回復し、
生きる喜びをとりもどしていく様子に心打たれます。
なぜならおじいさんは苦しみをしっかりと受け入れているからです。
そして「自分の力」で前にすすもうとしているからです。
まっすぐな姿勢でいきようとしているひとは、
きっといつか必ず新しい幸せを手に入れることができるものだと信じます。

「おいしい」を共有する喜びの力、
「おいしい」といってもらう喜びの力。
細胞のすみずみまでしみわたる、思い出つまったあたたかなスープが、
おじいさんに与えた幸せを思うと、胸がいっぱいになります。
たいせつなひととは、「おいしい」をいっぱい共有して生きていきたいものです。


大好きな角野栄子さんのお話のほっこりした豊かさはもちろんのこと、
市川里美さんの描くおじいさんの佇まいの変化、部屋の空気感の変化、見事です。





2008.5.15



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