「ルリユールおじさん」
いせひでこ・作 理論社



毎日おふとんに入ってから、
この「ルリユールおじさん」を開いている。

パリの路地裏の工房。
木のこぶのようにごつごつしている、ルリユールおじさんの手。
ルリユール、とは“手仕事の製本”のこと。

ソフィーは大切な植物図鑑が壊れてしまって途方にくれるのだけれど、
ルリユールおじさんの工房を探し当て、丁寧な手仕事で直してもらうのでした。

ルリユールおじさんは、その手で本をつくり続け、
知識や物語や人生や歴史がいっぱいつまっている「本」を
誠実に未来にむかって伝えつづけてきた。

おじさんの父親も製本職人だった。
幼いころルリユールおじさんは、父の仕事を「魔法のようだ」と傍らで見ていた。

自分の製本仕事に目を輝かすソフィーに出会い、
幼い自分を重ね合わせたのでしょう、
ルリユールおじさんは自分に問います。

「わたしは魔法の手をもてただろうか」

決してあくせくはしない。
ただ手仕事に謙虚にむきあい、
情熱もって仕事をまっとうし、
喜びと感謝の気持ちを享受する。

ルリユールおじさんにも、
ソフィーにも、
また見事な水彩画でその情景を描く作者のいせひでこさんにも
そんな姿感じられる気がして、
この56ページにおよぶ絵本の中は、
透明な輝きに充ちている。

「ルリユール」
その言葉には“もう一度つなげる”という意味もあるという。

見事にうまれかわった植物図鑑を手にしたときのソフィーの心のうちをおもうと、
こちらもしあわせな気持ちになる。
誠実にいきることのうつくしさ。
それを誰も否定しないでしょう。


上質な一冊。



2008.4.21



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